輪島キリモトの独創的なものづくりを語る上で欠かせないのが、代表・桐本泰一氏のユニークなバックグラウンドです。桐本家は江戸時代後期から輪島塗の土台となる木材を削り出す「木地屋(きじや)」として代々続いてきた名門ですが、桐本氏自身は最初から家業を継ぐ道を選んだわけではありませんでした。
筑波大学で生産デザインを学んだ後、大手オフィス家具メーカーでプロダクトデザイナーとして勤務。オフィス空間のプランニングや家具開発に携わり、工業製品の合理性やマーケティング、人間工学に基づいた形状設計を徹底的に叩き込まれました。このデザイナーとしての視点を持ったまま1980年代後半に故郷・輪島へ戻ったことが、輪島キリモトの大きな転換点となります。
当時の輪島塗業界は木地屋・下地屋・上塗り屋・蒔絵屋などによる完全な分業体制であり、職人がエンドユーザーの顔を直接見る機会はほとんどありませんでした。桐本氏はその構造に危機感を抱き、自ら素材調達からデザイン、木地成形、塗り、販売までを一貫してプロデュースする体制を確立。デザイン思考と伝統技術が融合したプロダクトは、日本のクラフトデザイン界に鮮烈なインパクトを与えました。