藤子・F・不二雄ファンが真っ先に抱く疑問が、「川崎市藤子・F・不二雄ミュージアム」との差別化です。結論から言えば、この二つの施設は競合関係ではなく、完全に補完し合う関係性にあります。
神奈川県川崎市の施設は、藤本氏が長年居を構えて数々の名作を執筆した「仕事場」と「作品世界」を体感する巨大なテーマパーク型ミュージアムです。キャラクターを模したメニューが並ぶ大型カフェや「はらっぱ」、体験型アトラクションが充実しており、ファミリー層を含めた幅広い大衆に向けてエンターテインメント性を前面に押し出しています。
対照的に、高岡市藤子・F・不二雄ふるさとギャラリーの主眼は、「ひとりの内気な少年が、いかにして世界的な表現者へと成長していったか」という作家の内面史の追体験にあります。展示されているのは、生家近くの高岡市立定塚小学校時代や富山県立高岡工芸高校時代に描かれた肉筆のスケッチ、相棒である安孫子素雄氏(藤子不二雄Ⓐ氏)と手作りした伝説の肉筆回覧誌『少太陽』の精巧な複製、そして上京時に持参した愛用のカバンや万年筆など、極めて個人的で純粋な「創作の初期衝動」を物語る品々です。
生前の藤本氏は自著や回想インタビューにおいて、「ぼくのマンガの底に流れているものは、すべて高岡の風土から生まれた」という趣旨の告白を遺しています。立山連峰を望む高岡城址公園の緑や、路面電車が走る街並み。ギャラリーの窓から見える高岡の空光を感じながら原画と向き合う時間こそ、川崎では絶対に味わえない唯一無二の体験と言えます。