平安の宮廷文化で生まれた源氏名は、室町から江戸時代にかけて大きな変容を遂げます。その中心となったのが、幕府公認の遊里であった江戸の吉原をはじめとする各地の遊郭です。
江戸期の遊郭において、最高位の遊女である太夫や花魁(おいらん)たちは、客に対して徹底した非日常の幻想(ファンタジー)を提供する存在でした。借金や家庭の事情といった泥臭い生い立ち・世俗の素性を完全に消し去り、格式高い「美と教養の象徴」として君臨するために、古典文学や和歌、四季の情景にちなんだ雅な源氏名が授けられました。
明治・大正・昭和初期の花柳界(芸妓・芸者)や銘酒屋、戦後のキャバレーや高級クラブへと接客文化が受け継がれる過程で、「本名を出さずに特別な空間を演出するシステム」として源氏名は完全に定着しました。平成から令和のキャバクラ、ガールズバー、ホストクラブ、コンカフェに至るまで、時代ごとのトレンドを反映しながらも、「現実と切り離された特別なペルソナを提供する」という根本の機能は一貫して受け継がれています。