当時、SNSやネット掲示板(5chやYahoo!知恵袋など)では、「イチローが代表の打撃コーチになるべきだ」「栗山監督が断られたのではないか」といった極端な言説が飛び交いました。このファンコミュニティの熱狂と現場の実態の間には、明らかな認識の乖離が存在していました。
一般ファンの間では「イチロー=最強の指導者としてベンチに座ってほしい」という願望が先行していました。しかし、実際のプロ野球界および侍ジャパンのマネジメントにおいて、イチロー氏のような圧倒的存在がベンチに入ることには、メリットだけでなく若手選手が萎縮しかねないという副次的なリスクもはらんでいます。
栗山監督は選手たちの心理的安全性(サイコロジカル・セーフティ)を極めて重視する指揮官です。ダルビッシュ有投手が宮崎キャンプ初日から合流し、若手投手に惜しみなく変化球を教える環境を作ったのも、選手同士の自発的な関係性を最優先した結果でした。イチロー氏が現場に入らず、外側から重みのあるメッセージを投げかける立ち位置に留まったことは、結果としてダルビッシュや大谷がチームリーダーとして自然に立ち上がる空間を生み出しました。ネット上の単純な「入閣待望論」とは異なり、現場の空気感を知り尽くした首脳陣の計算が働いていたのです。