多くのパティシエがデコレーションや複雑なレイヤーで個性を主張しようとする中、興野シェフのクリエイションはむしろ「引き算」に近い。主役となる素材の風味を邪魔する余計な要素は、徹底的に削ぎ落とされる。だからこそ、主役の味わいがストレートに、かつ鮮烈に脳裏に焼き付く。
渡仏時代に培ったクラシックな技術をベースにしつつも、決して過去の遺産には頼らない。常に「今、この現代において最も美味しい組み合わせとは何か」を自問自答し続ける姿勢が、彼のつくるケーキにモダンな軽やかさを与えている。重厚でありながら、後味が驚くほどすっきりしているのは、計算し尽くされた水分量と空気の抱き込み方によるものだ。