淡水性の甲殻類を扱う上で、最も慎重を期すべきは寄生虫の存在である。サワガニは「ウエステルマン肺吸虫」と呼ばれる寄生虫の中間宿主として知られる。生食用として誤って摂取したり加熱が不十分であったりした場合、寄生虫が肺や胸膜に侵入し、激しい咳や胸痛、時には脳神経系への重篤な障害を引き起こす恐れがある。
厚生労働省が提示する食品衛生の指導基準では、淡水産の水産物に関して「中心部までの完全な加熱処理」を強く要請している。生食や表面を炙る程度の調理法は論外であり、歴史的にも徹底した加熱が求められてきた。食の造詣が深かった北大路魯山人の時代から、淡水生の味覚には目に見えないリスクが潜むと警鐘が鳴らされていたのだ。
ウエステルマン肺吸虫を確実に死滅させる条件は、中心温度75℃以上で1分間以上の加熱だ。サワガニの場合は、厚い甲羅や脚の関節奥深くまで熱を到達させる必要がある。しっかりと時間をかけて揚げ切る調理手順は、安全を担保すると同時に、固い甲殻をクリスピーな食感へと変貌させる理にかなったプロセスと言える。