彼の異彩を語る上で欠かせないのが、東京大学大学院で音響信号処理を学んだという異色の経歴だ。数理的な視点から音の構造を捉えるアプローチは、フレーズの組み立てやペダリングの微細なコントロールにも色濃く反映されている。感覚だけに頼らない緻密な音響の構築。それが、どれほど複雑な旋律であってもクリアで立体的に響く理由だ。
学術的なバックグラウンドは、決して演奏を硬質にするものではない。むしろ音響の物理的な特性を理解しているからこそ、ホールごとの響きを瞬時に分析し、最適な音色を選択できるアドバンテージとなっている。論理的思考と豊かな情熱という相反する要素が共存するスタイルは、現代の音楽家におけるひとつの理想像を示している。