レディメイドのバッグを手に入れようとした者が最初に直面するのが、定価20万円〜50万円超というプライシングと、正規取扱店でもほぼ顧客予約で埋まるという入手の難しさです。なぜキャンバス地のバッグが、伝統的なラグジュアリーメゾンのレザーバッグと同等、あるいはそれ以上の価格で取引されるのでしょうか。市場構造を分析すると、明確な3つの要因が浮かび上がります。
第1の要因は、原材料となるヴィンテージファブリックの枯渇と選別コストです。レディメイドが使用するのは、主に1940〜50年代のUS ARMY(米軍)で実際に使用されていたテントやダッフルバッグです。半世紀以上前のミリタリー資材は年々世界的に枯渇しており、状態が良く味のある個体を仕入れるだけでも莫大なコストがかかります。さらに、1点のバッグを作るために複数の生地を解体し、色味やステンシル(軍用印字)の配置を職人が手作業でバランス調整しながら裁断するため、工業的な大量生産が構造上不可能です。
第2の要因は、世界的なトップセレブとデザイナーコミュニティによる熱狂です。生前のヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)氏がいち早くその才能を絶賛し、トラヴィス・スコット(Travis Scott)やカニエ・ウェスト(Ye)といったUSヒップホップ界の巨頭がプライベートで愛用したことで、熱狂的な支持が世界中に拡大しました。ラグジュアリーとストリートが融合する現代において、彼らが身につけることは最高のステータスシンボルとなりました。
第3の要因は、ラグジュアリーの記号性をハックするカウンターカルチャーとしての希少性です。エルメスのバーキンやオータクロアといった至高のアイコンを、あえて「戦争の道具であったミリタリーテント」で再構築するという皮肉と平和へのメッセージは、既存の高級品に飽き足らない富裕層の知的所有欲を強烈に刺激しました。結果として、供給量が需要の数パーセントにも満たない状況が続き、二次流通でのプレミア化が定着しています。