武井咲版『黒革の手帖』を傑作たらしめた要因として、周囲を固めた豪華キャスト陣による緻密な心理戦が挙げられます。原口元子を取り巻く人間関係は、単なる敵味方を超えた生々しい権力闘争で構成されていました。
物語の核となるのが、衆議院議員秘書・安島富夫(江口洋介)との関係です。清濁併せ呑む政治の裏舞台で生きる安島は、泥水をすすりながら頂点へと這い上がろうとする元子に自分と同じ匂いを感じ取り、惹かれ合っていきます。敵対する立場でありながら、魂の深層で結びつく二人の大人の色香漂う掛け合いは、本作屈指の名シーンとして語り継がれています。
さらに元子の前に立ちはだかる敵役たちの怪演も見逃せません。楢林クリニックの院長・楢林謙治(奥田瑛二)とその愛人である看護長・中岡市子(高畑淳子)、大手予備校理事長・橋田常雄(高嶋政伸)、そして銀座のフィクサー・長谷川庄司(伊東四朗)。実力派俳優陣が演じる強欲な権力者たちが、元子の手帳に記された脱税・裏金スキャンダルによってプライドを打ち砕かれていく様は、まさに圧巻のサスペンス劇でした。