和同開珎をめぐる議論で避けて通れないのが、富本銭の存在だ。1990年代末、飛鳥池遺跡の発掘調査によって大量の富本銭と製造工房跡が発見されたニュースは、日本中に大きなショックを与えた。7世紀後半、天武天皇の時代に鋳造されたとされる富本銭の登場により、「日本最古の貨幣」という称号の座は揺らぎ始める。
では、富本銭と和同開珎にはどのような決定的な違いがあったのだろうか。最新の出土状況の比較分析によれば、富本銭は主にまじないや儀式用の用途、あるいは極めて限定的な官民の取引で用いられた試行錯誤の産物だった可能性が高い。これに対し、国家主導で全国規模での統一流通を目指した最初の大規模プロジェクトこそが和同開珎であった。両者の関係性は、単純な新旧の交代劇ではなく、国家構築の試行錯誤が生んだ政策の変遷を如実に物語っている。