名著『土 地球最後のナゾ』が暴く食糧危機の深層と100億人の未来

名著『土 地球最後のナゾ』が暴く食糧危機の深層と100億人の未来

話題沸騰中の 名著『土 地球最後のナゾ』が暴く食糧危機の深層と100億人の未来について、詳しいまとめをご紹介しています。

ネット上の農業・環境言説において頻繁に見られるのが、「化学肥料を完全に廃止し、有機肥料(オーガニック)だけに回帰すれば土壌は本来の豊かさを取り戻し、すべての環境問題は解決する」という極端な言説だ。しかし、本書および土壌科学の客観的事実に基づけば、この言説には大きな盲点が存在する。

第一の誤解は、「有機物は無尽蔵に湧いてくる」という錯覚である。堆肥や家畜糞尿などの有機肥料を作るには、莫大な量の植物や飼料が必要となる。家畜が食べる穀物はどこで生産されているのか。結局のところ、化学肥料を投入して生産された飼料作物の養分が家畜を通じて有機肥料になっているケースが大半であり、系全体で見れば外部からの養分補給なしに現在の収量を維持することは物理的に不可能だ。

スリランカが2021年に強行した「化学肥料の全面禁止・完全有機化政策」がわずか半年で農業崩壊と食糧暴動を招き、政権崩壊に至った歴史的事実は記憶に新しい。土壌から作物を収穫して都市へ運び、下水として海へ流し続ける現代社会において、収奪されたリンやカリウムを何らかの形で土壌に還元しなければ、土は確実に痩せ細っていく。

第二の誤解は、「昔の日本の土は自然のままで肥沃だった」という神話だ。前述の通り、黒ボク土は手つかずの自然状態では強酸性でリンを固定化するため、作物がほとんど育たない。日本の豊かな農業は、自然への無条件な依存ではなく、人為的な土壌改良と適正な施肥管理という「高度なテクノロジーと労働の累積」によって維持されてきた。土を正しく愛するためには、根拠のないロマン主義を排し、科学的な物質循環の冷徹な法則を直視しなければならない。

田中 結衣
著者

田中 結衣

グルメと旅を愛するフリーライター。全国各地の隠れた魅力を独自の視点から紹介します。