本作の原作者は、緻密な社会派サスペンスで知られる作家・山田宗樹です。2003年に発表された原作小説と、2006年に公開された中島哲也監督の映画版には、物語の骨格は共通しながらも、演出アプローチと読後感・鑑賞感に明確な違いが存在します。
映画版の最大の特徴は、あまりに重く残酷な現実を、ディズニー映画やブロードウェイを彷彿とさせる極彩色のCGとポップなミュージカルナンバーでコーティングした点です。中島哲也監督は、松子の過剰なまでのポジティブさと破滅的な行動力をポップに描くことで、逆に彼女の抱える孤独と痛々しさを際立たせる手法を取りました。
対して山田宗樹の原作小説は、徹底してドライで冷徹な筆致が貫かれています。甥である笙の視点を通じて、ひとりの女性がいかにして社会から脱落し、現代の孤独死へと至ったのかをルポルタージュのように描き出します。映画版のようなファンタジックな救済描写は排され、昭和から平成へと移り変わる日本の暗部と人間のエゴイズムが克明に刻まれているのが特徴です。
また、原作では松子の友人・めぐみのAV制作会社でのビジネスや、甥・笙の精神的な成長過程がより深く掘り下げられており、単なる悲劇にとどまらない骨太な群像劇としての魅力を味わうことができます。