ネット上や消費者の間で「東芝は中国企業に買収された」という言説が根強く残っている背景には、経営危機の最中に断行された「中核子会社・主要ブランドの切り売り」が存在します。一般消費者にとって東芝の顔であった白物家電とテレビが、相次いで中国の大手電機メーカーに売却されたため、本体ごと中国企業に買収されたかのような強い認知の歪みが生じました。
実際に海外企業へと売却された主な事業の経緯を整理すると、真相が明確になります。
第一に、冷蔵庫や洗濯機、炊飯器などを手掛けていた白物家電事業の本体である東芝ライフスタイル株式会社です。東芝は2016年6月、同社株式の80.1%を中国の大手家電メーカー美的集団(マイディア・グループ)に約537億円で売却しました。美的集団は買収後も「TOSHIBA」ブランドを維持・継続して製品を開発・販売する権利を40年間保持しており、現在店頭に並ぶ東芝の家電製品は美的集団の傘下で生産されています。
第二に、液晶テレビ「REGZA(レグザ)」で高いシェアを誇った映像事業会社の東芝映像ソリューションです。2018年2月、同社株式の95%が中国の電機大手海信集団(ハイセンス・グループ)へ約129億円で譲渡されました。その後、社名は「TVS REGZA株式会社」へと変更されましたが、現在もレグザの商標はそのまま継承され、ハイセンスの強大なパネル調達力と東芝伝統の高画質映像処理エンジンが融合した製品が市場を席巻しています。
さらに、ノートPC「dynabook」を展開していたクライアントソリューション事業は、2018年から2020年にかけて台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業の傘下にあったシャープへ段階的に売却されました。そして、巨額のキャッシュフローを生み出していた虎の子の半導体メモリ事業(東芝メモリ)は、2018年に米投資ファンドのベインキャピタルが率いる「日米韓連合」へ約2兆円で売却され、現在のキオクシアホールディングスへと独立しました。
このように、一般消費者が日常で目にする製品領域(家電、テレビ、PC)がことごとく中国系・台湾系企業の傘下に入った事実が、「東芝そのものが中国に買収された」という強固な誤解を生み出す決定打となったのです。