「This is a pen」という例文が日本の教育界に登場した背景には、日本の近代化と英語教育の制度設計が深く関わっています。明治初期、開成学校(現在の東京大学や開成中学校・高等学校のルーツ)をはじめとする官立学校では、西洋の学問を直接英語で学ぶ「変則英語」から、系統的な文法教授法へと移行が進められました。
当時、大正から昭和初期にかけて岡倉由三郎や英国人言語学者ハロルド・パーマーらが提唱したオーラル・アプローチや文法教授法において、英語の基本構造である「S+V+C(第2文型)」、指示代名詞「This」、be動詞「is」、そして単数不定冠詞「a」を一度に教えるための「最小単位の完璧なモデル文」として考案されたのがこの例文でした。
なぜ「リンゴ(apple)」や「本(book)」ではなく「ペン(pen)」だったのか。そこには当時の時代背景があります。明治・大正期の日本人にとって、万年筆やインクをつけて書く「つけペン」は、西洋文明の到来を象徴する最先端の学習用具でした。机の上に必ずあり、教師が生徒の前で手に取って実演(Demonstration)しやすく、単音節で発音しやすい単語として「pen」が選ばれたのです。