『東尋坊』の制作陣には、歌謡界の重鎮たちが名を連ねています。作詞を手掛けた木下龍太郎は、実際に福井県の現場へ足を運び、荒れ狂う冬の日本海とそそり立つ断崖絶壁を徹底的に取材しました。そこで目にした自然の厳しさと雄大さを、失意の底にある主人公の心情描写へと昇華させています。
歌詞の中盤に登場する「東尋坊」「越前海岸」といった具体的な地名は、情景を鮮明に浮かび上がらせるだけでなく、旅情を誘うフックとして機能しています。木下が意図したのは、自殺の名所という陰鬱なパブリックイメージの払拭でした。波しぶきに打たれながら「命の尊さ」と「生き直す決意」を胸に刻むというドラマツルギーを構築した点に、この詞の非凡さがあります。
メロディを担当した作曲家の弦哲也は、水森の澄み切った高音の伸びと、芯のある中音域の響きを最大限に活かす旋律を書き下ろしました。哀切を帯びたマイナーコードの導入部から、サビにかけて一気に視界が開けるようなドラマティックな転調とダイナミクスは、演歌ファンのみならず幅広い音楽リスナーの感情を揺さぶる構造となっています。