なぜ人の目は据わってしまうのか。近年の神経科学や心理生理学の知見によれば、これは脳の「闘争か逃走か(Fight or Flight)」反応、あるいはさらに切迫した「凍りつき(Freeze)」反応と深く結びついている。
激しい怒りや強いプレッシャーを感じた際、脳の扁桃体が過剰に活性化する。すると交感神経が急激に優位になり、瞳孔が開く一方で、脳は目の前の脅威だけに全神経を集中させようとする。その結果、周辺視野の情報を遮断し、中心視だけに焦点を絞り込む「トンネル視野」状態が形成される。これが外側から見ると、いわゆる鋭く目が据わった状態となるわけだ。
一方で、過剰な疲労や絶望感によって背側迷走神経(副交感神経系)が優位になると、今度は心が現実から離脱し、感情が麻痺したような「虚ろに目が据わる」現象が起こる。同じ視線の固定であっても、内部で起きている自律神経のドラマは真逆の場合があるのだ。