旧函館区公会堂の誕生は、悲劇的な厄災からの復興劇そのものです。1907年(明治40年)8月、函館の街を焼き尽くした大火により、町役所や商業会議所を兼ねていた町会所が灰燼に帰しました。途方に暮れる市民の前に立ち上がったのが、当時の函館屈指の豪商・相馬哲平氏です。相馬氏が投じた私財5万円(現在の貨幣価値で約10億円規模に相当)という巨額の寄付を主財源として、1910年(明治43年)に現在の壮麗な公会堂が落成しました。
明治の洋風建築技術の精華を集めた本建築は、1974年に国指定重要文化財に指定されました。しかし、風雪にさらされ続けた木造構造の経年劣化や耐震性の不足が課題となり、函館市は2018年10月から総事業費約22億円を投じた保存修理工事に着手。綿密な塗膜調査に基づき、昭和の修理で塗られた淡い色合いから、竣工当時の鮮烈な「ブルーグレー×イエロー」の色彩設計へと回帰を果たしました。
現在公開されている姿は、耐震補強金物を巧みに隠蔽しながら、明治期の華やぎを極限まで再現したものです。一歩足を踏み入れれば、ただ古い建物を眺めるのではなく、当時の国際貿易都市・函館が放っていた熱気と気品を五感で追体験できる空間が維持されています。