「うましかて」が現代の若い世代に広く知られるきっかけとなったのは、スタジオジブリが2004年に公開した映画『ハウルの動く城』だ。原作はイギリスの作家ダイアナ・ウィン・ジョーンズによる同名小説だが、宮崎駿監督が脚本を大幅に書き直した日本版では、主人公ハウルのアシスタントとして登場する少年マルクルが食事の前にこのセリフを唱えるシーンが収録されている。
マルクルは城の中でソフィーと食卓を囲むとき、子どもらしい真剣な顔で「うましかてを」と言ってから食べ始める。この「を」は古語の対格助詞であり、「うましかて(美味しい食べ物)を(いただきます)」という構造になっている。つまり、現代語の「いただきます」に相当する食事前の感謝の言葉として機能しているのだ。
ジブリ作品に関する情報を発信する複数のウェブメディアが報じているように、このシーンは公開当時から「マルクルがかわいい」「セリフが独特で気になる」とコアなジブリファンの間で話題になっていた。しかしそれが一般層へと拡散するには、SNSとYouTubeというプラットフォームの成熟を待つ必要があった。
2020年代に入り、食事動画(フードコンテンツ)がYouTubeやTikTokで爆発的に増加する中で、ユーチューバーたちが「うましかてを」と唱えてから料理を食べるスタイルをネタとして取り入れ始めた。「YouTubeでユーチューバーが食事をするときに"うましかて"と唱えているのを見て、意味がわからずに困惑した経験のある人たちもいるはずです」という声が複数のウェブ記事でも紹介されており、この表現を知らない視聴者にとっては突然の「古語っぽい言葉」が謎のまま広がっていった経緯がある。