四半世紀に及んだITV版ドラマ『名探偵ポワロ』のロケ現場からは、興味深い舞台裏の逸話が数多く残されている。関係者によると、主演のデヴィッド・スーシェは撮影期間中、常にポワロのキャラクターを維持するため、休憩時間であっても独特の小走りや丁寧な物腰を崩さなかったという。衣装スタッフはポワロの寸分の狂いもないスーツ姿を保つため、常に特注のパットとアイロンを常備していた。
また、劇中に登場するポワロのロンドンの自宅「ホワイトヘヴン・マンション」のロケ地(フロリン・コート)は、アール・デコ建築の傑作として実在する建物だが、撮影時には現代の電線や自動車が画面に入り込まないよう、細心のデジタル修正と美術設営が施されていた。名作の裏には、完璧主義を貫いたスタッフたちの並々ならぬ執念が存在していたのだ。