「ティラノサウルスに最も近い現生生物はニワトリである」という言説を耳にしたことがある人は多いはずです。この説の発端となったのは、米ハーバード大学のジョン・アサラ博士らの研究チームが学術誌『Science』に発表した画期的なタンパク質配列の解析でした。約6800万年前のティラノサウルスの化石から抽出された微量なコラーゲンタンパク質のアミノ酸配列を現生動物と比較したところ、ワニやトカゲなどの爬虫類を大きく引き離し、ニワトリやダチョウの配列と最も高い一致率を示したのです。
さらに、鳥類ゲノムの国際研究プロジェクト(Avian Phylogenomics Project)による大規模解析でも、ニワトリや七面鳥の染色体構造は、他の多くの鳥類に比べて鳥類の共通祖先(原始的な恐竜様祖先)のゲノム配置を最も色濃く保持していることが判明しました。スズメ目の鳥のように急速な多様化と遺伝的再編を経験したグループと比べ、ニワトリのゲノムは進化の速度が緩やかで、恐竜時代の遺伝的痕跡をそのまま留めているという学術的な裏付けが存在します。
つまり、分子生物学的な「ゲノムの保存状態」という指標において、私たちが日常的に接しているニワトリが恐竜の直系であることを裏付ける科学的根拠は極めて強固です。