架空のセリフでありながら、なぜこれほど強固な文化的共通言語となったのでしょうか。その背景には、1990年代の少女漫画ブームから、2010年代のソーシャルメディア普及、そして「小説家になろう」発の悪役令嬢コンテンツへの発展という三段階の進化プロセスがありました。
第一段階は、少女漫画における「記号の抽出」です。かつての学園ラブコメディでは、完璧な権力者が自分に阿らない平凡な少女にプライドを打ち砕かれ、それが恋心へと反転するプロセスを丁寧に描いていました。読者はこのお決まりの展開を愛好していましたが、SNS時代に入ると長大な文脈は省略され、「不敵な笑み+反抗への興味=おもしれー女」という最小単位のミームへと圧縮されます。
第二段階で火をつけたのが、2018年頃から爆発的ブームを巻き起こした悪役令嬢ジャンルです。破滅フラグを回避しようと常識外れの行動(筋トレ、内政チート、農業、商売など)に出る転生ヒロインに対し、攻略対象である王子や冷酷貴族が「フッ……おもしれー女」と惚れ直すシーンが定番のメタギャグとして定着しました。かつてはパロディだった構文が、いまや物語を前進させる公式エンジンとして堂々と作中に組み込まれるようになったのです。