病魔は静かに、しかし確実に忍び寄っていた。しかし、夏まゆみはその事実を周囲の限られた関係者以外には一切明かさなかった。ステージの上に立つ者、そしてそれを導く者が「同情の目」で見られてはならないという、過酷なまでの美学があったからだ。
がん闘病の渦中にあっても、彼女の眼差しは常に未来に向けられていた。病室のベッドの上でも執筆活動を続け、教え子たちの活躍を画面越しに厳しくも温かく追い続けた。彼女が最期に遺した言葉には、「誰もが自分の人生のセンターである」という強い思想が込められている。病に倒れてなお、彼女は自らの生き様をもって、壁にぶつかるすべての表現者へ最高峰のエールを送り続けていたのだ。