2号機が量産機によって解体・捕食される一連のシークエンスは、日本のアニメーション史において今なお並ぶもののない戦慄の極致です。白い量産機たちは、機能停止した弐号機を取り囲むと、鋭利な牙をむき出しにして機体の腹部へ食らいつきました。
装甲板が強引に引き剥がされ、ピンク色に蠢く巨大な消化器官や腸管が白昼の光の下に引きずり出されます。量産機はそれを貪り食い、咀嚼し、口元を赤黒い体液で濡らしながら空中へ飛び立ち、内臓の帯を空へと引き延ばしていきました。映画館の巨大スクリーンに響き渡る肉の裂ける音、骨の砕ける重低音、そしてアスカの喉が張り裂けんばかりの絶叫は、観客に強烈な生理的嫌悪感を植え付けました。
この異様な捕食シークエンスの造形について、美術・設定関係者の証言や当時の制作資料では、チベット仏教などにみられる「鳥葬(ちょうそう)」が直接的なインスピレーション源であったことが知られています。鳥葬とは、遺体を野外に置き、ハゲタカなどの猛禽類に肉体を食べさせることで魂を天へと還す伝統的な葬送儀礼です。量産機の鳥類を思わせる頭部形状や無機質な大型の翼、死肉に群がるような執拗な動きは、まさに鳥葬のハゲタカそのものでした。
しかし、なぜ庵野秀明監督をはじめとする制作陣は、ヒロインの一人であるアスカに対してこれほど過酷な損壊描写を課したのでしょうか。当時の劇場用パンフレットや雑誌のインタビューにおいて、制作陣は「アニメという虚構に安住するファンへの覚醒」と「肉体を持つことの絶対的な生々しさ」を徹底的に突きつける意図があったことを示唆しています。
精神的な母の愛に目覚め、無敵のヒロインとして完成したかに見えたアスカを、直後に「ただの肉塊」として引き裂くというプロット。これは、都合のよいロボットアニメ的カタルシスを根底から否定し、人間が生きている以上決して避けられない「肉体の脆さ」「他者からの不可侵領域の暴力的な蹂躙」を可視化するための冷徹な演出選択でした。
アスカ役を務めた声優の宮村優子氏は、当時のアフレコについて「肉体的にも精神的にも本当に殺されるかと思った」「喉から血が出るほどの絶叫を求められ、過呼吸寸前でマイクの前に立っていた」と複数の特番インタビューや手記で述懐しています。その生々しい苦悶の演技が乗せられたことで、エヴァ2号機の捕食シーンは単なるグロテスク描写を超え、魂を抉るような実存の悲劇へと昇華されたのです。