美術史家および現代の医学者による鑑定の結果、老人の鼻にできたこぶの正体は、皮膚疾患の一種である「酒さ鼻(しゅさはな/鼻瘤:Rhinophyma)」であることが判明しています。毛細血管の拡張や皮脂腺の肥大によって鼻が赤く瘤状に変形する進行性の疾患であり、当時は有効な治療法が存在しませんでした。
なぜギルランダイオは、裕福な貴族であったとされるこの老人の病変をありのままに描いたのでしょうか。そこには15世紀フィレンツェで花開いた「人間中心主義(ヒューマニズム)」の思想が色濃く反映されています。
中世の宗教的制約から解き放たれ、自然や人間の本質を忠実に観察しようとしたルネサンス期の知識人たちにとって、人間の真の尊厳は外見の美醜ではなく、内面に宿る徳や愛情にありました。老人の皮膚の衰えや変形を描き切ることで、むしろ彼が孫に向ける無償の愛の純粋さが際立つという、高度な絵画的レトリックが込められているのです。