両国国技館や巡業先に足を踏み入れると、ふわりと漂う独特の甘い芳香。その正体こそが、髪作りに欠かせない「びんつけ油」である。モクロウ(木蝋)や植物油をベースに練り上げられたこの油脂は、髪に圧倒的なツヤと保持力を与え、激しい取組でも髪が崩れない強力な固着性を誇る。
しかし、大相撲力士たちのヘアケア事情には一般人の想像を超える苦労が隠されている。日常的に多量の油を使用するため、一度塗ると普通のシャンプーで落とすのは容易ではない。ぬるま湯と専用の固形石鹸を駆使し、何度も丁寧に洗い流す必要がある。髪を傷めないよう乾燥や油の塗布量にも細心の注意が払われており、日々の絶え間ない手入れによってその美しい髪質が保たれているのだ。