座席そのものの設計と並び、観客の怒りを増幅させてきたもう一つの決定的な要因が、興行主催者による「強気な席種価格設定」です。SNSやレビューサイトで「座席ガチャに負けた」「これで同額のS席料金を取るのは詐欺的だ」と酷評された根因は、ここにあります。
一般的に、劇場の座席区分(S席・A席・B席・見切れ席の割り振り)は劇場の所有者ではなく、各演目のプロモーターや製作会社が決定します。大手ミュージカル製作会社やアイドル・2.5次元舞台の興行では、チケット単価が高騰する中で採算分岐点を引き上げるため、全座席の実に80〜90%近くを「S席」として囲い込む販売手法が常態化してきました。
心理学的に見ると、観客は「S席」というプレミアムな名称と高額な対価(13,000円〜18,000円台)に対して「出演者の表情が鮮明に見え、舞台の全貌が破綻なく楽しめる」という心理的期待を持ちます。しかし、いざ着席してみれば「舞台の半分が見切れるバルコニー席」や「手すりに視界を遮られる端席」だった場合、期待と現実の落差が著しい認知的不協和を生み出します。これが激しい怒りとなり、ネット上での痛烈な口コミへと転嫁されたのです。
現在では一部の誠実な主催者を中心に、視界制限がある席を「注釈付きS席」や「見切れA席」として割引価格で販売する動きが定着しつつあります。しかし、演目によっては依然として容赦のない「一律S席販売」が行われている現場があり、事前の座席表チェックが自衛のために欠かせません。