能町みね子さんが世に出て注目を浴びる大きな契機となったのが、2006年に開設したブログをもとに書籍化されたデビュー作『オカマだけどOLやってます』でした。当時、都内の一般企業で事務職OLとして働きながら、自身の性自認にまつわる日常を赤裸々かつ軽妙に綴ったエッセイは大きな反響を呼びました。
能町さんは出生時の身体的性別が男性でしたが、幼少期から違和感を抱き続け、のちにトランスジェンダー女性(当事者として性同一性障害と診断)であることを自覚します。センセーショナルに扱われがちなテーマでありながら、過度に悲劇ぶることも美談に仕立てることもなく、淡々と自らの身体と社会のズレを描写する筆致は、当時から極めて画期的なものでした。
自らのアイデンティティについて「性同一性障害」という医学的な枠組みだけに縛られることを好まず、社会通念や言葉の使われ方そのものに疑問を投げかける姿勢は、現在の批評家としてのスタンスの原点ともなっています。