「夏が暑くなればなるほど蝉は元気に鳴く」という認識は、生物学的には完全な誤解です。昆虫は外気温に体温が左右される変温動物であり、活動に適した温度帯が存在します。
専門機関の観測データによると、日本に生息する一般的な蝉の活動適温は25度から32度前後とされています。日中の最高気温が35度以上の猛暑日になると、蝉にとっても過剰な体温上昇は命に関わるリスクとなります。そのため、蝉は鳴く気温が35度以上に達すると、直射日光を避けて樹木の奥深くや日陰に身を潜め、体温上昇とエネルギー消費を抑えるために鳴き止む習性を持っています。
特に顕著なのが都市部のアブラゼミです。かつて主流だったアブラゼミが鳴かない原因は、アスファルトの照り返しによる日中の極端な高温です。朝夕の涼しい時間帯(午前6時〜8時、夕方17時〜19時頃)に限定して鳴く個体が増えた結果、日中帯に外出する人々が「蝉の声がしない」と錯覚する構造が生まれています。