2021年の全面リニューアル開館を経て、大きな脚光を浴びた長野県立美術館。設計を手掛けた建築家・宮崎浩(プランツアソシエイツ)が掲げた基本理念は、建物を自己主張させるのではなく、善光寺の歴史的文脈と城山公園の起伏ある自然に調和させる「ランドスケープ・ミュージアム」でした。地上3階・地下1階の低層構造は、善光寺本堂の屋根勾配や背後に連なる山並みを決して遮ることのないよう綿密に計算されています。
来館者を最初に圧倒するのは、敷地の高低差を巧みに生かした「屋上広場(風のテラス)」と「水辺のテラス」を結ぶ立体的な歩行動線です。入館料を支払わずに誰でも自由に通り抜けられるフリーゾーンが館内の広範囲を占めており、善光寺境内から城山公園へと向かう散策路がそのまま美術館内部へと吸い込まれるように設計されています。ガラス越しに差し込む自然光と、周囲の木々の借景が一体となる回廊を歩くだけで、従来の「閉ざされた美術館」の概念が根本から覆されます。
なかでも来館者の目を奪う仕掛けが、水辺のテラスに常設設置された世界的なアーティスト・中谷芙二子による「霧の彫刻(水の旅)」です。純水を高圧ノズルから噴出させて大気中に微小な水滴を漂わせるこのインスタレーションは、定時になると一帯を深い霧で包み込みます。「気象と対話するアート」と称される通り、風の強さや外気温、湿度によって霧の滞留時間や流れ方が瞬時に変化し、人工物でありながら予測不能な自然の息吹を体感させる名所となっています。