作中で重要な役割を果たす「宮水神社」は、単一の建物をそのまま模写したわけではない。新海誠監督と制作スタジオのコミックス・ウェーブ・フィルムは、飛騨山王宮日枝神社の鳥居や拝殿の佇まい、気多若宮神社の石段、さらには信州や各地の古社に残る神道儀礼や巫女舞の意匠を重層的に組み合わせ、あの幻想的な空間を創り上げた。
制作初期のロケーションハンティングでは、神楽殿で行われる伝統的な儀礼や組紐の歴史、彗星にまつわる民間伝承の現地調査が徹底して行われたという。美しいビジュアルの裏側には、失われゆく地方の記憶と信仰をフィルムに刻み込もうとした制作陣の執念が宿っている。虚構と現実の神社建築が絶妙にブレンドされているからこそ、観客は実在するどの神社を訪れても「宮水神社」の気配を感じ取ることができるのだ。