目の前で激しい咬み合いが始まった瞬間、飼い主を襲うパニックは想像を絶します。しかし、反射的な行動の多くが、事態を劇的に悪化させる致命的な引き金となっています。救急搬送される飼い主のカルテを検証すると、共通する犬の喧嘩におけるNGな止め方が浮き彫りになります。
最大のタブーは、「素手で首輪を掴みに行ったり、犬の顔の前に手を入れること」です。極限の興奮状態に陥った犬の脳内ではアドレナリンとコルチゾールが過剰分泌されており、痛覚すら麻痺しています。この状態で視界の端から伸びてきた人間の手は、犬にとって「新たな敵」または「攻撃対象」として無意識に認識され、反射的な本気噛み(転嫁攻撃)を食らうことになります。大型犬はもちろん、小型犬であっても腱を断裂したり粉砕骨折に至る重傷事故が頻発しています。
次に危険なのが、「ヒステリックに大声で叫び立てること」です。「ダメ!」「やめて!」という飼い主の金切声は、犬にとっては群れのリーダーがパニックを起こし、さらに闘争を煽る「声援」として機能してしまいます。人間の甲高い興奮はそのまま犬の闘争本能をスパークさせ、噛みつく力をさらに強めさせる逆効果しか生みません。
また、「リードを力任せに真上や真後ろへ引き絞る行為」も極めて危険です。首元が圧迫される強い痛みが相手犬からの攻撃と錯覚され、攻撃のボルテージを一段階引き上げてしまうからです。現場で必要なのは、飼い主自身の感情を極限までフラットに保ち、冷徹な物理介入を行う覚悟です。