「竹に雀」と聞くと、伊達政宗を擁する仙台伊達家の家紋を思い浮かべる方も多いはずです。実は、上杉笹と伊達笹の違いの根底には、戦国初期に起きた壮大な政略結婚計画が横たわっています。
天文11年(1542年)、越後守護の上杉定実には後継ぎがおらず、陸奥の名門・伊達稙宗の三男である伊達実元を養子に迎える縁組が持ち上がりました。このとき、破格の持参金・引き出物として上杉家から伊達家へ贈られたのが、家宝の「竹に雀」の紋だったのです。
その後、伊達家内部で大乱(天文の乱)が勃発し、養子縁組そのものは立ち消えとなりました。しかし、贈られた家紋はそのまま伊達家に留まり、伊達家はこれを誇りとして自家の定紋「仙台笹」へと昇華させました。
一見酷似している両者ですが、デザインを精査すると明確な差異が存在します。
上杉笹の造形美:外周を形作る竹の節が力強く描かれ、中央で向かい合う2羽の雀は、片方が口を開け、もう片方が口を閉じる「阿吽(あうん)」の呼吸を表現しています。全体の輪郭は端正で、伝統的な公家文化の影響を感じさせる静謐な佇まいです。
伊達笹(仙台笹)の造形美:竹の枝が外側へ大きく円を描いて広がり、雀は丸みを帯びて今にも飛び立たんばかりに躍動しています。中央の雀は互いに顔を寄せ合うように愛らしく配置され、後世の伊達文化に通じる華麗でダイナミックな意匠へと洗練されました。
同じ源流を持ちながら、越後の冷厳な気候と管領の格式を重んじた上杉家、奥州の覇者として独自文化を開花させた伊達家、それぞれの美意識が紋章のディテールに宿っています。