朝ドラ『とと姉ちゃん』における坂口健太郎の役柄は、帝大で学ぶ実直な青年・星野武蔵です。丸眼鏡に素朴な佇まい、道端の雑草にも温かな眼差しを向ける姿は、ヒロイン常子にとって激動の日々の中で唯一「素の自分」に戻れるオアシスのような存在でした。学生時代に惹かれ合いながらも、戦争の激化と星野の出征・地方赴任によって一度は音信不通となります。
多くのファンを歓喜させたのが、第15週(第86話〜第87話)における奇跡の再登場でした。戦後、東京・目黒の洋食屋で15年ぶりに偶然の再会を果たした二人。しかし、星野は激戦地から復員後、妻を病気で亡くし、青葉と大樹という幼い二人の子どもを男手一つで育てるシングルファーザーとなっていました。
星野が常子へ思いを告げた「プロポーズの名シーン」は、第21週(第124話)で描かれました。星野の仙台への転勤が決まり、「僕たちと一緒に来てくれませんか」と生涯の伴侶としての歩みを求めます。常子もまた、彼とともに生きる温かな家庭を夢見ました。しかし、常子が下した決断は「プロポーズを断る」ことでした。
結ばれなかった最大の理由は、常子が亡き父と交わした「家族(とと姉)として小橋家を守り、雑誌『あなたの暮し』を通じて日本の生活を支える」という使命の重さでした。一方で星野もまた、母親を亡くした二人の我が子に対して全責任を負う立場にあります。お互いに「背負っている家族と役割」を手放すことができなかったのです。互いに頬を寄せ合いながらも唇を重ねることなく、涙ながらに別々の道を選んだラストシーンは、視聴者の涙腺を崩壊させました。