厚生労働省の国民健康・栄養調査および健保連の追跡データによると、健診結果で「要再検査・要精密検査(D判定)」を受け取った受診者のうち、実際に医療機関を受診する割合は約4割から5割程度に留まるという衝撃的な実態があります。半数近い人々が、危険を知らせる通知を握りしめたまま放置している計算です。
医療現場の医師たちへの取材や、大手Q&Aコミュニティ、SNS上で語られる患者たちの告白からは、放置の背景にある生々しい人間心理が浮かび上がります。
「40代前半で血圧150台、LDLコレステロール170台を叩き出し、判定は要精密検査のD判定でした。しかし、日々の残業で忙しく、体調も至って快調だったため『来年の健診で考えよう』と先送りにしたのです。結果、その2年後の冬の朝、通勤途中で胸を締め付ける激痛に襲われ、急性心筋梗塞で救急搬送されました。ステント留置術で一命は取り留めましたが、主治医から『健診の通知は体からの最後通告だったはずですよ』と告げられたとき、冷や汗が止まりませんでした」(都内在住・40代男性会社員の手記より)
こうした事態を心理学および行動経済学では「正常性バイアス(Normalcy Bias)」と「医療回避行動」と呼びます。人間は自分にとって都合の悪い脅威情報を無意識に過小評価し、「自分だけは大丈夫」「ただの体質だ」と思い込もうとする強い心理的防衛機制を持っています。さらに、医療機関を受診して確定診断を受けることへの恐怖心(病名告知に対する恐れ)が加わり、結果として最も治療介入が容易な初期段階を自ら棒に振ってしまう構造が作られています。