日本馬が凱旋門賞に挑み始めて半世紀以上、幾多の名馬が挑みながらも頂点に立てない背景には、単なる精神論や運の要素では片付けられない物理的・環境的な要因が存在します。ネット上では「日本馬は芝が合わない」「遠征の輸送疲れ」といった大雑把な言説が散見されますが、関係者への取材から浮かび上がる凱旋門賞 勝てない理由 真相は、より構造的です。
最大の障壁は、ロンシャン競馬場 コース適性の特異性と、秋のパリ特有の凱旋門賞 馬場状態 重馬場の質にあります。ロンシャンの芝は、日本の競馬場で採用されている野芝主体の高速・高反発クッション構造とは根本から異なり、寒地型ペレニアル・ライグラスやブルーグラスが密生した「粘土質土壌」です。雨を含んだ瞬間に蹄が深く沈み込み、踏み込んだ瞬間に後方へ土が跳ね上がることなく、まとわりつくような重厚な抵抗を生み出します。
かつて遠征した名手たちの自著や特番インタビューでも、その過酷さは生々しく語られています。「日本の重馬場とは泥の質が違う。まるで湿った重い絨毯の上を長靴で全力疾走させられているような感覚で、直線を向いた瞬間に推進力が失われていく」という現場の証言は、まさにこの環境的落差を象徴しています。加えて、スタート直後から約500メートル続く高低差約10メートルの登り坂、そこからフォルスストレート(偽りの直線)を経て下りながら最終直線へ突入する起伏に富んだレイアウトは、道中で息を入れるタイミングを奪い、サラブレッドの心肺機能を極限まで消耗させます。
秋のパリは天候が非常に変わりやすく、レース前日の降雨でペネトロメーター(馬場硬度計)の数値が「Très Souple(重)」や「Collant(不良)」へ一変することが日常茶飯事です。過去の遠征史を振り返っても、オルフェーヴルが2着に好走した2012年やエルコンドルパサーの1999年はいずれも馬場悪化のなかで驚異的な底力を発揮しましたが、それでも欧州馬の「泥濘を力任せに掻き分けて進む強靭な後肢の筋肉」にわずかに屈しました。日本の高速馬場で鍛え上げられた純粋な瞬発力だけでは、ロンシャンの泥濘を克服することは不可能なのです。