「バスを降りたはずなのに、目の前にデパートの売場が広がっていた」「案内看板の矢印通りに進んだら、急に階段が行き止まりになった」――。SNSや知恵袋などでは、名鉄バスセンターに降り立った利用者の悲鳴にも似た投稿が後を絶ちません。名鉄バスセンターで人々が方向感覚を失う最大の理由は、建物の「立体多層構造」と「視界の遮断」にあります。
通常のバスターミナルは地上1階に広場が整備されているケースが大半ですが、名鉄バスセンターは名鉄百貨店メンズ館の3階および4階に組み込まれた空中ターミナルです。3階が主に近距離・中距離路線(近郊路線バスや空港特急バスなど)、4階が全国主要都市を結ぶ長距離高速夜行バスの発着フロアとなっています。地上数百メートルの高さではないものの、周囲を厚いコンクリートと商業施設に囲まれているため、屋外の景色から方角を認識することが極めて困難な構造になっています。
空間認知心理学において、人間は「水平移動」よりも「垂直移動(上下移動)」を挟むことで、直前に認識していた空間のメンタルマップ(頭の中の地図)を失いやすいとされています。利用者は「名古屋駅へ行く=前へ進む」と考えがちですが、実際には「まず下層階(1階または地下1階)へ降りる」という垂直の移動フェーズを完了させなければ、駅の改札階には到達できません。この基本構造を把握していないことが、迷子を生み出す最大のトラップとなっています。