「東京や首都圏のデパ地下に出店すれば、間違いなく記録的な売上を叩き出すはず」――。飲食ビジネス関係者が長年そう指摘しながらも、りくろーおじさんの店が頑なに大阪を中心とした直営展開にこだわり続ける背景には、創業者・西村陸郎氏の精神を受け継ぐ「焼きたてへの執念」があります。
同店の看板商品であるチーズケーキの最大の特徴は、オーブンから出た瞬間のスフレのような「ふわシュワ食感」と、底に敷き詰められた自家製シロップ漬けレーズンの絶妙な調和です。この食感を成立させるためには、「各店舗で1回につき12個ずつ、10〜15分間隔で焼き上げ続ける」という独自のオペレーションが不可欠となります。もし東京へ大規模出店を行えば、デンマークの伝統ある工場から直輸入する高品質クリームチーズや、北海道十勝の新鮮な牛乳、厳選卵といった原材料のサプライチェーンが肥大化し、工場で一括生産したものを運ぶ「冷めたケーキの再加熱モデル」への転換を余儀なくされます。
報道各社の取材や公式発表資料でも一貫して言及されている通り、同社は「目の前で焼き上げ、熱々のまま手渡す体験価値」を何よりも優先しています。あえて全国チェーン化を拒み、関西のローカルブランドとしての希少性を維持することは、結果として「大阪に行かなければ体験できない観光のシンボル」としてのブランドロイヤルティを強固に築き上げる原動力となっています。