けんちん汁のルーツは、鎌倉時代に創建された臨済宗建長寺派の大本山、鎌倉・建長寺にあります。初代住職である蘭渓道隆(大覚禅師)が、崩れてしまった豆腐や野菜の皮・端材を無駄にせず、ごま油で炒めて煮込み、修行僧に振る舞った「建長汁(けんちょうじる)」が転じて「けんちん汁」と呼ばれるようになったと伝えられています。仏教の不殺生戒に基づく精進料理であるため、本来は肉や魚介を一切使わず、昆布や椎茸の出汁、豆腐、根菜のみで滋味を作り出すのが本来の様式です。
この禅寺の知恵が関東一円に広まる過程で、独自の食文化として花開いたのが茨城県の郷土料理としてのけんちんうどんです。茨城県北・県央地域では、収穫したばかりの地場野菜をふんだんに使った熱々のけんちん汁に、手打ちのうどんや蕎麦を合わせて食べる習慣が根付いています。特に冷たい麺を温かい汁につけてすする「つけけんちん」は、ハレの日の行事食や冬の定番として、2026年現在も県内各地の専門店や家庭で愛され続けています。