乗降客数が極めて多い埼玉県西部の中核都市でありながら、なぜ東横インは所沢への進出を見送ってきたのでしょうか。流通都市計画やホテル開発のビジネスモデルを分析すると、所沢ならではの3つの構造的障壁が浮かび上がってきます。
第1の理由は、西武グループによる強固なドミナント戦略と土地供給のコントロールです。所沢は言わば「西武の城下町」であり、駅ビルや隣接する一等地の大半は西武リアルティソリューションズをはじめとするグループ企業が保有・管理しています。外部の単独ホテルオペレーターが手頃な条件で駅前用地を取得・開発することは容易ではなく、参入障壁が非常に高いエリア設計となっているのです。
第2の理由は、ベルーナドーム需要に起因する「極端な繁閑差(曜日・季節波動)」です。プロ野球公式戦や人気アーティストのドーム公演が開催される週末は、市内外から宿泊客が殺到し客室稼働率は100%近くまで跳ね上がります。しかし、イベントがない平日やプロ野球のオフシーズン(11月〜3月)になると、純粋なビジネス出張需要だけでは客室を埋めきれない懸念が残ります。東横インが掲げる「年間を通じた高稼働率(80%以上)モデル」にとって、波の激しい需要構造は収益計画上の大きな足かせとなります。
第3の要因として挙げられるのが、池袋まで特急で約20分という「都心吸い上げ効果(ストロー現象)」です。都心への交通利便性があまりに高いため、出張者も観光客も「わざわざ所沢に泊まる必然性」が薄れ、選択肢の豊富な池袋や新宿に宿泊地を構えて移動する行動パターンが定着しています。この都市構造こそが、東横イン所沢ない理由の本質的な背景となっています。