宇野昌磨の五輪キャリアを語る上で欠かせないのが、平昌大会の栄光から北京大会へ至る道中に訪れた、競技人生最大の挫折期です。長年師事した山田満知子コーチ、樋口美穂子コーチの元を離れ、メインコーチ不在で臨んだ2019-2020シーズン。グランプリシリーズ・フランス杯でジャンプのミスを連発し、総合8位に沈んだ宇野昌磨が、キス・アンド・クライで一人涙を拭った姿は、世界中のフィギュアファンに衝撃を与えました。
孤独な暗闇から彼を救い出したのが、トリノ五輪銀メダリストでありスイスの指導者であるステファン・ランビエールでした。単なるジャンプの技術指導にとどまらず、スケートの持つ芸術的純粋さ、氷上で表現する喜びを対話によって呼び覚ましたランビエールコーチの存在は、宇野昌磨のメンタル構造を根本から変革させました。
NHKや名古屋テレビの特番インタビューで本人が述懐した通り、「勝つために滑るのではなく、ステファンの喜ぶ顔が見たいから滑る」という他者への純粋な献身が、結果としてプレッシャーからの解放を生み出しました。過剰な自意識を脱ぎ捨て、表現者として滑走する境地へと至ったプロセスこそ、北京五輪でのメダル奪還の原動力となったのです。