ボールペンの構造は極めて精密です。先端のチップ内部には直径0.28ミリ〜1.0ミリ程度の超硬炭化タングステン製またはセラミック製の極小ボールが収まっており、ボールとホルダーの隙間はわずか数マイクロメートルしかありません。筆記時にボールが回転することでインクを巻き込み紙へと転写する仕組みのため、わずかな異常でもインク供給が完全に停止します。
書けなくなる主因の第1は、ペン先が固まったことによるボールの回転不良です。キャップを外したまま放置したり、筆記時に紙の微細なセルロース繊維(紙粉)や修正液の破片をペン先の隙間に巻き込んだりすると、インクの溶剤が揮発して固着し、ボールが物理的にロックされます。
第2の原因は、リフィル(芯)内部への空気(気泡)の混入です。カレンダーや壁に貼った書類に水平以上の角度で文字を書く「上向き筆記」や、ペン先を上にした状態での放置を行うと、重力に逆らってペン先から空気が侵入します。一度ペン先付近に気泡が入り込むと、インクの連続性が断たれてしまい、いくら残量があってもインクが引き出されなくなります。
第3の原因は、インク自体の経年劣化や温度変化による変質です。日本筆記具工業会(JWIMA)の基準でも示されている通り、ボールペンの使用推奨期限は製造から油性で約3年、水性・ゲルインクで約1〜2年とされています。保管場所の温度や湿度によってインク内の溶媒が蒸発して粘度が高くなりすぎたり、逆に寒冷地でゲルが硬化したりすると正常な流動性を失います。