齋田家の歴史を語る上で欠かせないのが、高い教養と芸術的才能に恵まれた8代当主・齋田東村の存在だ。彼は名主としての多忙な職務の傍ら、書画や歌道に秀で、とりわけ茶の湯に深い情熱を注いだ文人として知られている。
千利休以来の侘び茶の伝統を汲みつつ、自身の独自の美意識を投影した茶道具の選定や茶会の記録は実に興味深い。東村が好んだ茶器や自作の竹茶杓からは、無駄を削ぎ落とした静寂のなかに宿るぬくもりが感じられる。当時の江戸文人界隈や茶人たちとの活発な交流を示す書簡も残されており、世田谷の地が決して文化の辺境ではなく、高度な茶の湯文化が花開いたサロンであったことを如実に物語っている。