ネット上の掲示板や知恵袋などで散見されるのが、「仏像を刺青にすると重すぎて体を壊す」「神仏を背負うと罰が当たる」といったタブー説です。一生肌に残るものだからこそ、こうした言説に不安を覚える人は少なくありません。
結論から言えば、仏教の教義や刺青の歴史において「大日如来を彫ること自体が罰当たり」という定説は存在しません。タイの伝統的な護符タトゥー「サックヤン」に見られるように、神仏や聖なるシンボルを身体に定着させて守護の力を得る風習は、アジア圏の精神文化として深く根付いています。日本の伝統和彫りにおいても、江戸時代から職人や火消し、侠客たちが自らの命を守る願掛けとして神仏を背負ってきました。
では、なぜタブーのような噂が生まれたのでしょうか。伝統工芸としての和彫りを継承する熟練の彫師たちは、その背景を次のように語ります。
「神仏の図柄、特に最高位の大日如来や激しい憤怒相の不動明王は、背負う側の覚悟が問われるモチーフです。中途半端な気持ちや悪ふざけで彫り、途中で投げ出したり自堕落な行動を取ったりすることへの戒めとして『絵柄の重さに負ける』という表現が使われてきました。敬意を持って完成させ、誇りを持って生きる者にとっては、これ以上ない強力なお守りになります。」
つまり、問題視されるのはモチーフそのものではなく、彫る側の精神的姿勢や敬意の有無です。神仏の尊厳を理解し、生涯大切にする覚悟があれば、恐れる必要はまったくありません。