ダリアにまつわる負の象徴は、18世紀末のフランス宮廷に端を発する。ナポレオン・ボナパルテの妻、皇后ジョゼフィーヌは自慢の庭園「マルメゾン」で珍しいダリアを独占的に育て、誰一人として球根を持ち出すことを許さなかった。
事件はある日突然起きる。どうしてもその花を手に入れたかった貴族の侍女が、庭師を買収して球根を盗み出し、自らの庭で見事に咲かせてしまったのだ。激怒したジョゼフィーヌは庭師を追放し、侍女を宮廷から締め出したという。この執着と略奪の顛末が、「移り気」や「裏切り」「不安定」という冷ややかな花言葉の源流となった。
ひとつの植物を巡って人間の強欲とプライドが交錯した歴史。ダリアの花弁の整然とした幾何学的美しさは、どこか狂気を孕んだドラマの幕開けを予感させる。