牛生レバーが禁止された直接の契機は、2011年4月に発生した富山県などの焼肉チェーン店における集団食中毒事件(5名死亡、重症者多数)でした。この悲劇を受けて食品安全委員会による徹底的なリスク評価が行われ、2012年7月1日をもって生レバー禁止理由となる食品衛生法の基準改正が断行されたのです。
長年、一部の料理人や肉好きの間では「鮮度が良ければ安全」「新鮮な朝引きレバーなら当たらない」という言説がまことしやかに語られてきました。しかし、国立感染症研究所などの科学的調査によって、この思い込みは完全に否定されています。牛肉の筋肉部分は外側を削り取る(トリミング)ことで菌を除去できますが、牛の肝臓は血管が網の目のように走る構造上、腸管出血性大腸菌O157が表面だけでなく「内部組織の深部」にまで約10%の確率で保菌されていることが判明したためです。
どれほど衛生管理の行き届いた屠畜場であっても、肝臓の内部に潜り込んだO157を洗浄や殺菌剤で無害化することは物理的に不可能です。O157はわずか数十個から百個程度の極めて微量な菌数で発症し、強力なベロ毒素を産生して溶血性尿毒症症候群(HUS)や脳症など、致死的な後遺症を引き起こします。さらに、鶏肉や豚肉と同様にカンピロバクター食中毒によるギラン・バレー症候群(手足の麻痺や呼吸困難)の危険性も併せ持つため、「中心部まで63℃で30分間以上加熱(または同等以上の加熱)」を行わなければ安全を担保できないという結論に至りました。