ネット上のヘルスケア情報やQ&Aサイトでは、「痛みがなければ一生放っておいても何の問題もない」という極端な言説が散見されます。しかし、この言説には運動器疾患における重大な盲点が存在します。
関節軟骨には神経線維(痛覚受容器)が存在しません。そのため、骨格の歪みや靭帯の弛緩によって軟骨同士が微小に擦れ合い、摩耗が始まっていたとしても、初期段階ではまったく痛みを感じないのが人体構造の冷酷な真実です。痛覚が反応するのは、軟骨が完全にすり減って軟骨下骨が露出した時、あるいは削れた摩耗粉が滑膜を刺激して急性の滑膜炎を引き起こした時です。
つまり、「痛くない=関節が健康」という等式は成立しません。足首を回すたびに毎度同じ軌道でクリック音が鳴る場合、それはすでにアライメントが狂い、特定組織への異常な偏負荷が定着している力学的証拠です。無痛の期間こそが、将来の関節障害を予防するための唯一の猶予期間であると認識を改める必要があります。