炭酸リチウムを安全に服用する上で、患者本人が最も警戒しなければならないのが、日常的な薬の飲み合わせと生活習慣による「体内濃度の急変」です。
まず、添付文書上でも警告されている炭酸リチウム飲み合わせ禁忌および併用注意薬の筆頭が、ロキソプロフェン(ロキソニン)やジクロフェナク(ボルタレン)に代表される「非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)」です。解熱鎮痛薬として市販薬にも広く含まれているこれらの成分は、腎臓のプロスタグランジン合成を阻害し、腎血流量を低下させます。その結果、リチウムの体外排泄が妨げられ、通常の用量を飲んでいても血中濃度が跳ね上がり、急性中毒を引き起こす重大なリスクが存在します。頭痛や発熱時には、アセトアミノフェンなど影響の少ない薬剤を選択するのが鉄則です。
さらに、高血圧の治療に用いられるアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)、チアジド系利尿薬も同様にリチウム排泄を低下させるため、併用には厳格な用量調整が求められます。
薬剤だけでなく「生活環境による脱水」も極めて危険なトリガーです。リチウムは体内においてナトリウムと非常によく似た挙動をとります。夏場の猛暑、長時間のサウナ、激しいスポーツ、あるいは感染性胃腸炎による下痢や発熱で体内の水分と塩分が失われると、腎臓はナトリウムを必死に再吸収しようとします。その際、構造の似たリチウムまで過剰に再吸収してしまい、血中濃度が急上昇します。「汗をかいたら十分な水分と適度な塩分を補給する」ことは、リチウム服用者にとって生命維持に直結するルールです。