知床半島においてヒグマがこれほど高い密度で生息できる最大の理由は、海と陸が直結した極めて豊かな食物連鎖にあります。知床の自然環境は、春先の草本類やアリなどの昆虫、初夏から夏にかけてのフキやセリ、そして秋に遡上するサケ・マス類やドングリなどの木の実まで、季節ごとに豊富な栄養源が途切れることなく供給される奇跡的な構造を持っています。
国立公園内の道路沿いでは、初夏から夏にかけて路肩の倒木や石をひっくり返してアリを採食するヒグマの姿が頻繁に見られます。海岸線から標高1,600mを超える高山帯まで、限られた狭い半島の中で垂直方向に環境を巧みに使い分けることで、多数の個体が縄張りを重複させながら共存しています。
知床財団の調査研究や公式データによると、半島の限られた面積の中に数百頭規模のヒグマが生息していると推計されており、この極めて特異な生態系こそがユネスコ世界自然遺産登録の決め手となりました。