エリクソン理論の中でもひときわ広く知られ、教育現場や心理臨床で議論され続けているのが第5段階の青年期におけるアイデンティティ確立です。思春期から青年期にかけて、人間は「自分は何者なのか」「社会の中でどんな役割を果たすべきなのか」という自己定義の問いに直面します。
ここで対立するのが「自我同一性(アイデンティティ) 対 アイデンティティ拡散(同一性拡散)」の葛藤です。過去の自分、現在の自分、将来なりたい自分が一本の軸として統合され、周囲からも一貫した人間として承認されている状態を自我同一性の確立と呼びます。一方、自分が何をしたいのか分からず、他者の評価に過剰に左右されて自己を見失ってしまう状態がアイデンティティ拡散です。
この激しい葛藤を経験する青年たちに対し、エリクソンは「心理社会的モラトリアム(Psychosocial Moratorium)」という概念を提唱しました。これは、大人の責任や義務を一時的に猶予され、様々な自己の可能性を試行錯誤しながらアイデンティティを形成するための「猶予期間」を指します。
大学進学やインターンシップ、自分探しの旅などはまさにモラトリアムの典型例です。単なる現実逃避ではなく、確固たる自己同一性を打ち立てるために社会的に認められた貴重な熟成期間であると解釈できます。