『渡良瀬橋』の聖地を巡る上で、避けて通れない歴史的な出来事があります。それが2012年12月9日未明に発生した八雲神社の全焼火災です。足利公園に隣接する緑町の八雲神社は、歌詞に登場する神社として地域住民のみならず全国のファンに親しまれていましたが、火災によって木造の本殿と拝殿が完全に灰燼に帰してしまいました。
地域が深い悲しみに包まれる中、救いの手を差し伸べた一人が森高千里本人でした。彼女は自身のコンサート会場に募金箱を設置したほか、足利市民会館で復興支援チャリティコンサートを電撃的に開催。集まった義援金を神社再建のために全額寄付しました。この献身的なアクションに呼応するように、伊勢神宮の式年遷宮に伴う古材の譲渡という幸運も重なり、約5年の歳月と総工費約1億6,000万円をかけて2017年秋に美しい木造社殿が再建されました。現在では、災禍を乗り越えてより強固になった「街とアーティストの絆」を象徴する聖地として尊崇を集めています。
一方、もうひとつのシンボルである「床屋の角の公衆電話」も時代の激流に晒されてきました。携帯電話やスマートフォンの普及に伴い、NTT東日本は採算性の低い公衆電話ボックスの撤去を全国規模で推進しています。尾名手町交差点近くの理髪店「バーバー尾沢」の前に佇むこの電話ボックスも例外なく撤去の危機に直面しましたが、地元自治会、商店街、観光協会の強い要望により、観光資源としての重要性が認められて存続が決定しました。キャッシュレス決済が当たり前となった現代において、10円玉を入れて受話器を握るという身体的体験を残し続けている点は、まさに奇跡と呼ぶにふさわしい光景です。